アンドレイ・タルコフスキー(1932年4月4日 – 1986年12月29日)。ソ連の映画監督。
ソ連が崩壊し、今のロシアが建国されたのが1991年ですから、社会主義国家であったソビエト連邦時代の映画監督です。
僕はタルコフスキーの大ファンですが、映画監督としてはもちろん、芸術家・思想家としてのタルコフスキーに惹かれています。
ソ連の芸術家・思想家
ソ連の芸術家といえば、すぐに思い浮かぶのが作家のドストエフスキー(1821年11月11日 – 1881年2月9日)ではないでしょうか。「カラマーゾフの兄弟」。
そして、次に来るのが同じく作家のトルストイ(1828年9月9日 – 1910年11月20日)ですね。「戦争と平和」で有名です。どちらも18世紀の人ですが、思想家としても今でも世界中に影響を与えている人たちですね。
あとは、劇作家のチェーホフ(1860年1月29日 – 1904年7月15日)。作家でもありますが、当時の演劇の概念を変えた人物として有名です。
人物ではないですが、1910年代から1930年代初頭に起こったムーブメントといいますか、芸術運動である「ロシアン・アバンギャルド」もありましたね。アート本で「ロシアン・アバンギャルド」を包括した本をよく見かけます。
共通する感性とムード
ソ連の芸術家に共通する感性というかムードはとても暗い。「深い精神性」、「内省性」、そして「宗教性」。
タルコフスキーも例外ではありません。まさしくソ連の芸術家です。
芸術家としてのタルコフスキーの思想
ドストエフスキーやトルストイもそうでしたが、タルコフスキーも思想家としての側面を持っていました。彼は「資本主義」や、派生する「消費者文化」を痛烈に批判しています。
“消費者”のために設計された現代の大衆文化は、魂を傷つけ、魂の存在としての基本的な問題への道を妨げるのだ。
そして、「消費者文化」の根源にあるものを「知識」だといいます。
知識は人の精神の豊かさ、はたまた人生の本当の豊かさを奪ってしまう。
それを多く持てば持つほどにだ。色んなことを散漫にしてしまう。
私たちが深く進む時、広く世界を見ることができなくなるのだ。
自由意志を使って、人間が自分自身の上に立ち上がるためには、アートが必要なのだ。
タルコフスキーと同じことを、今ではいろんなアーティストや思想家が言っているような気がします。僕は「知識」と「言葉」を同義に捉えています。情報過多な今の時代には特にアートが必要なのではないかと思います。
タルコフスキーの映画
タルコフスキーは以下の作品(メインの作品)を世に出しました。こうやって見ると少ない!
- アンドレイ・ルブリョフ Андрей Рублёв (1967年)
- 惑星ソラリス Солярис (1972年)
- 鏡 Зеркало (1975年)
- ストーカー Сталкер (1979年)
- Tempo di viaggio (1983年)
- ノスタルジア Nostalghia (1983年)
- サクリファイス Offret (1986年)
タルコフスキーの映画を観たことがある人ならわかると思いますが、その作風は非常に重く、難解です。時には息苦しいほどに。
僕はタルコフスキーの映画の評論(そんなことする能力など最初からありません)がしたいわけではありません。単純にタルコフスキーの何が好きかを伝えたいだけです。
タルコフスキー映画の映像美
タルコフスキーの作品を本当に理解するには、深い宗教の知識が必要です。何だかタルコフスキーの思想と矛盾してるようですけどね。知識が多く必要となるなんて。
なので、僕が彼の作品をちゃんと理解しているかというと、それはしていないと思います。
僕がタルコフスキーの何が好きかって、もう、そうれはもう、「映像美」なんです。
息をのむほど美しい。タルコフスキー独自の内省的で幻想的な映像が好きでたまりません。
僕の好きなタルコフスキーの作品
僕のフェイバリットは、上の写真の「ノスタルジア(Nostalghia)」と、最後の作品である「サクリファイス Offret 」です。映像美という観点でいうと、「ノスタルジア(Nostalghia)」が一番と思います。
「サクリファイス Offret 」はもう、荘厳で、死の匂いがプンプン漂っています。それにこの喪失感。発表された作品の中で一番重いものではないでしょうか。僕的にはこれがまたたまらないわけですが。映像も本当に美しいです。
タルコフスキーと音楽
タルコフスキーは実は音楽家になりたかったという説があります。
というのも大きいと思いますが、彼の映画はホント音楽的です。自論ですが、彼の映画が、音楽と同じように心にイメージを残すからではないでしょうか。
ここで僕が言っているイメージとは、映画を観ることで芽生えた感情に対する心のイメージです。それは映画で提示された映像ではありません。なんかうまく言えないんですけど。タルコフスキーの映画に実は「音楽」は少ないのですが、「音」に対するこだわりが凄まじい。「音楽」ではなく「音」です。
タルコフスキーの作品で良く言われることですが、「水」の音や、「空気」のノイズとか。
「サクリファイス Offret 」では冒頭からバッハのマタイ受難曲が流れますが、もう鳥肌もんです。もう何だか怖いくらいに(笑)。
武満徹による追悼曲
現代音楽家の武満徹(1930年10月8日 – 1996年2月20日)をご存知でしょうか。もう何が偉大なのかわからないほど偉大な人です。武満徹に対するリスペクトを表明する人は音楽家以外でも後を絶たない。僕も生意気ながら好きです。
この人は映画フリークで年に200本(記憶があいまいですが)は映画を観るそうです。この武満徹が傾倒していたのがタルコフスキーなんです。
武満徹が作曲の前に必ず聴く音楽、そして死ぬ前に聴いていた音楽が前述の「マタイ受難曲」だったとのこと。凄い縁があるんですね。
そんな武満徹はタルコフスキーが亡くなった後、タルコフスキーの死を悼んで、弦楽合奏曲『ノスタルジア--アンドレイ・タルコフスキーの追憶に』を作曲し、タルコフスキーに捧げています。
今の世代のフォロアー
ここでいうフォロアーは、映画監督としてタルコフスキーに影響を受けて出てきた人だけではなくて、もっと広い範囲、そう芸術家としてのタルコフスキーのフォロアーですかね。
例えば、最近僕の買ったテープ作品。モスクワの音楽家Ilya Artemov。この作品はタルコフスキーの映画にインスパイアされて生み出されています。映画のサンプリングもあります。
内容はディープアンビエント、エレクトロミュージックです。かなりマニアックなアーティストですが、すごく好きな作品です。タルコフスキーの世界観に近しいものがあります。
タルコフスキーの写真
タルコフスキーが写真を撮ってたって知ってましたか?
な、なんと、写真集が出てるんです。
彼が1979年から1984年の間にロシアとイタリアで撮影されたポラロイド写真が60枚収録されています。200枚から厳選した60枚らしい。
彼の映画の映像美が写真でも立ち上がっています。う、うつくしい、。素晴らしい写真集です。
まとめ
さて、いかがだったでしょうか。今回は僕が大好きなアンドレイ・タルコフスキーのお話でした。この記事でタルコフスキーに興味を持たれた方は、すぐに映画を観て下さい。最近リマスターBlu-rayが出ていて、画質が格段に上がっています。更に映画美が堪能できます。
写真集も素晴らしいです。どこかの回し者じゃないですからね(笑)。
それではみなさま、よい映画ライフを!
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