春日武彦の「精神医学事典」はイメージのグルーヴ

私家版 精神医学事典

これは久々に出会ったすごく面白い本。もっと大袈裟に言いたいけど、いい言葉が思いつかない。面白い本はいっぱいある。だけどこれはまた毛色が違うっていうか、そのお、何て言いますかね。自分なりの書評をかいてみます。書評っぽい言葉で書きますよ。

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事典でもなく、精神医学の専門書でもない

まず、この本は精神科医春日武彦が10年の歳月をかけた作品なのである。10年。ワンディケイド。まさかこの本の執筆に全精力傾けていたわけではないと思われるが、それにしても長い。
これは事典ではない。精神医学と銘打っているけど、精神医学の専門書でもない。
えーー!?。。じゃあ何よ?

連想のグルーヴ

これは、春日武彦のグルーヴィーなエッセイ集である。このエッセイ集のトピックは春日武彦の記憶の連想順に配列されている。
グルーヴというのは帯からの引用だが、この連想がグルーヴを生み出すわけである。イメージのグルーヴと言ってもいい。
そしてそれ自体がこの本を精神医学事典たらしめてると言っていい。
なぜなら精神疾患はイメージ、はたまた妄想を中心に成り立っているからだ。

もちろんこれは春日武彦のただの日常のエッセイではない。精神科医として蓄積した知識、そしてそれぞれの知識にセットで紐付いているモノコト。
この連関が更に次の連関を生んで行く。
精神医学や心理学、はたまた人間の狂気といったものをベースのテーマにしているが、全く関係ないトピックも多い。または逆にこうも言えるかもしれない、全く関係ないと思われるモノコトから精神医学的イシューを浮かび上がらせる。

すべてのトピックがホント面白い。

トピックの多様さと深さ

連想は縦横無尽。統合失調症から、ユングにラカン、三島由紀夫、中上健次、レイモンド・カヴァー、ニールヤングにダイアン・アーバス、ゴッホ、音楽、UFO、性癖、、何でもあり。

個人的に探求している「相対性」というテーマを刺激する一文があった。

結局、狂気が社会的な関わりにおいてのみ炙りだされてくるものなのか、それとも絶対的な狂気があるのか。

また、春日武彦はこう言う

精神疾患ないしは狂気を、理性や分別の欠落だとか五感や想像力の暴走といった文脈で捉える限りは、そこに「正常よりも劣る」といった価値判断が導入されても仕方がないことであろう。
しかし狂気とは人類の精神のありようのバリエーションとして理解されるべきであり、そのようなバリエーションが出現するのはそれがある種の環境においてはより適応力を発揮するからであり、したがって人類がいかなるシチュエーションに置かれても生き残っていくためのいわば「掛け捨て保険」として狂気が散発するという考え方も成立する。

神々の沈黙

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僕はこの箇所を読んで、ジュリアン・ジェインズの「神々の沈黙」という本を思い出した。
この本は、簡単にいえば古代(3000年前)における人間の意識と心のありようをさかのぼり分析している考古学的な研究書である。

いや、こんな陳腐な紹介じゃいけないのだが、、うーん。
研究内容は意識、心理学だけにとどまらず、哲学、歴史、文明解釈など多岐にわたり、それらを包括して現代人、我々の意識と心の謎に対する解答を提示してくる。

この本に「統合失調症」という章がある。ここでは、

古代、全ての人間は統合失調症であった。

という論を展開。古代では人間は意識を持っていなかったとされる。「意識がない=絶対的な生」とも言えるだろうか。意識がなくてどうやって生きるのか?この本によれば神々の声に従って人は生きていたというのだ。

狂気と相対性、はたまた絶対性ということを深く考えさせられるのである。

まとめ

どちらの本もホント面白いので読んでみてください。ぜひ!

それではみなさま、良い活字ライフを!

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