村上春樹はなぜ今「村上RADIO」なのか?

村上朝日堂 (新潮文庫)

さて、いよいよ迫ってきましたね。村上RADIO!

8/5(日)東京FMで1時間(19:00-19:55)、村上春樹が音楽について語ります。
番組のタイトルは、「村上RADIO RUN & SONGS」!

前夜祭?番組(7/29放送)によると、村上春樹がジョギング用のミニiPod8台に入れている膨大な音楽コレクションから自ら選曲し、あれこれを語るのだそう。あ、レコードもスタジオに持ち込むのかな?リスナーの質問にも答えます。そう、村上春樹の肉声が聞けるんです!
いやあ、ワクワクですね。肉声が聞けるなんて!

というか、前夜祭番組で既に聞けたんですけど、これがまた、予想外の声というか、、すごくダンディでクール。超かっこいいっす。

高校生の時「ノルウェイの森」に出会ってからはや2○年。長年の読者にとってこの機会は感慨深い!村上春樹への質問を期間限定で新潮社が受付けてたんですが、僕もばっちし質問メール送っときましたよ。読まれてくれよー。

さて、なぜ今「村上RADIO」なのか。あれほどメディア露出を避けていた村上春樹がなぜこのタイミングでラジオ出演なのか。ふむふむ。なんでだろうね。

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村上春樹の活動のサイクル

まずは村上春樹の活動のサイクルから見てみますか。多くの著作で語っているように、村上春樹の活動の軸となるのは「長編小説」です。

長編小説を執筆しているときは、他のことは何もできないと。心の深いレイヤーに潜っている、よくいう村上春樹のメタファー、「深い井戸」ってやつです。
深い井戸に潜る。きっとそれだけでクタクタになるし、精神も危うくなるんじゃないでしょうか。

書き終わったときには、心が空っぽ。これはものを創造する人共通ですよね。

創造の源泉が心や精神にあるのだから、これをアウトプットしたら空っぽになるのは当然だと思うんです。なんだか偉そうですか(笑)?すみません。

しばらく休んだら、次のタイミング(長編小説が書ける準備ができる)が来るまで、

  • 翻訳
  • 短編小説の執筆
  • 中編小説の執筆
  • エッセイの執筆

などに勤しむそうです。

村上春樹は最近自分語りが増えている

ここ最近(近年)、村上春樹は昔に比べたら圧倒的に自分の事を語るようになりました。

長年の読者で、村上春樹の作品で読んでないものはないとプチ断言できる僕ですから、これは確実に言えます。

上で書いたとおり、村上春樹は長編小説~ネクスト長編小説の間でエッセイなどを書くわけですが、最近はこの期間で刊行される著作が、自分自身をテーマとしたものが多くなっています。

ここ10年の活動を見てみる

ジャンル著作名
200710エッセイ走ることについて語るときに僕の語ること
20104長編小説1Q84
20119翻訳ジェフ・ダイヤー (Geoff Dyer) :バット・ビューティフル
20119インタビュー夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです
201111対談小澤征爾さんと、音楽について話をする
20124翻訳マーセル・セロー (Marcel Theroux): 極北
20134中編小説色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
20139翻訳恋しくて TEN SELECTED LOVE STORIES
20144短編小説女のいない男たち
20154翻訳ダーグ・ソールスター (Dag Solstad) Novel 11, Book 18
20157メールQA村上さんのところ
20159エッセイ職業としての小説家
201511紀行ラオスにいったい何があるというんですか?
20164翻訳カーソン・マッカラーズ 結婚式のメンバー
20172長編小説騎士団長殺し
20173エッセイ村上春樹 翻訳 (ほとんど) 全仕事
20174対談みみずくは黄昏に飛びたつ
20175翻訳ジョン・ニコルズ 卵を産めない郭公
201711雑誌Casa BRUTUS特別編集 音のいい部屋

こうしてみるとすごいっすねえ。ワーカホリック。10年で18冊(雑誌除く)ですから、1年1.8冊!約2冊ですね。1年で2冊刊行するのって相当です。長編小説書きながらですよ。

直近の長編小説「騎士団長殺し」と「1Q84」の間は7年

直近の長編小説は「騎士団長殺し」と「1Q84」ですが、レンジは7年(2010年~2017年)です。この間に12冊もの著作(翻訳を含む)が刊行されています。

7年で刊行された12冊のうち、自分語りの著作はなんと3分の1を占める

この12冊の中で自分語りの著作が4冊!なんと、3分の1です!これ、すごくないですか?お、お、お、。きましたね、この事実!
なんか研究みたいだ(笑)。あぶりだされてきたー、あぶりだされてきたー。

村上春樹の自分語りは58歳のときから始まった

村上春樹が、最初に自分をがっつり語ったのは、2007年10月に刊行された「走ることについて語るときに僕の語ること」です。今から約10年前。村上春樹の年齢でいうと、58歳の時になります。

2018年現在、最新の自分語りの著作は、「みみずくは黄昏に飛びたつ」ですね。これは、ホントよかった。ここ10年にレンジを広げると、自分語りの著作は7冊。うーむ。いかがでしょうか。昔なら考えられません。

村上春樹、自分語りの6冊

走ることについて語るときに僕の語ること

僕はこれが出たとき、本当にうれしかった。村上春樹の生き方の重要なファクターとなっているランニング。そのことが余すことなく語られる本。僕は高校生の時から村上春樹の生き方に影響を受けているし、たぶん彼の思想が血肉になってる。だからこそこの本に惹きつけられた。何度も読み返している本。

「羊をめぐる冒険」(1982年刊行)を書き上げたあと、そのくらいから本格的にランニングをはじめた。一日60本吸っていたタバコもやめた。

もう、約40年続けられてるんですね。すごいなあ。

小澤征爾さんと、音楽について話をする

ここでの村上春樹は子供のようです。マエストロ小澤征爾とクラシックについて語りつくす一冊。村上春樹ほどジャズやクラシックを愛し、造詣が深い人もそんなにいないのではないか。造詣が深い=知識が豊富ということではなくて(もちろんそれもあるけど)、音楽そのものを、音そのものを深く深く聴いているからこそ、小澤征爾と対等に話ができるんだし、心底楽しめるんだなと感じました。

村上さんのところ

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これは、2015年1月15日〜2015年4月30日、期間限定で公開された特設Webサイトで受付けた(17日間)、読者のメールに対する返答集。そのメールは17日間で3万7465通におよび、村上春樹はこのメールすべてに目を通したそうです。すげー。
僕は残念ながらこのサイトが公開されていることを知らずに、気付いた時には終わっていたんだけど、この本で堪能しました。この本にのってる473のメールで十分堪能。
Webメール企画は過去にもあって、その全てを僕は見逃してるけど、それぞれ書籍化されています。どれも、村上春樹の素がおもしろい。
質問者のメールの内容(シリアスなもの、ピュアなもの、まじめなもの、アホくさいもの etc¨)がどんなものでも的確で滋味に富んだ回答が心地よい。
しかし、質問者に異様に学校の先生が多いのはなぜだろうか。

職業としての小説家

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これはもう、自分語りの決定打ですね。自伝に近い。これが出たときも嬉しかったですねえ。内容は、冒頭いきなり

僕が見るところをごく率直に言わせていただきますと、小説家の多くはーーーもちろんすべてではありませんが---円満な人格と公正な視野を持ち合わせているとは言いがたい人々です。

です。こ、これはおもしろい!!な、なるほどー!そうだよなあ。
最初の何章はアイロニーに満ち満ちていて、辛らつなものいいだったりしますが、徐々にいわゆる「小説家」ついて、村上春樹の40年の経験から紡ぎだされるリアルな言葉で色んなことが語られます。めっぽうおもしろい。

みみずくは黄昏に飛びたつ

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これは対談集ではなく、インタビューですね。これはもう、もう、もうう、川上未映子がすばらしすぎて抱きしめたい感じです。何がすごいって、インタビュアーとしての質問がすごいんですね。どんどん村上春樹の内面を暴き出していくというか。川上未映子も同じ小説家ですから、小説を書くときのメソッドについての話もあるけれど、それよりも村上春樹の「精神性」みたいなものが良くわかります。
おそらく、村上春樹を読んだことない人(彼の世界観に慣れていないひと)や、ちょっとした抽象思考(≒哲学的な)が苦手な方は難解だと感じられるかもしれませんが、おもしろいので是非読んでみてください。
昨年読んだ本No1に輝きました(笑)。

Casa BRUTUS特別編集 音のいい部屋

この本、過去の記事「音楽部屋本が熱い!ブルータスで村上春樹の部屋が公開されてるよ!」でも取り上げましたが、今回の「村上RADIO」の布石なんでしょうかね。

この雑誌では、いままでもちろん公開されることはなかった、村上春樹自宅のオサレーな部屋が公開されています。

いわゆるオーディオルーム、リラックスできる部屋ってやつです。特筆すべきは、村上春樹の使っているスピーカーはもとより、アンプ、ターンテーブルの機種まで書いてあります。これにはビビた。ここまで来ると、もうイケイケモードなんでしょうか。ファンとしては大歓迎なんですけど。

いやあ、しかし春樹さん、部屋がかっこよすぎっすわ。降参です。

そしてついに「村上RADIO」

さあ、そしてついに「村上RADIO」です。2017年4月の「みみずくは黄昏に飛びたつ」→11月の「Casa BRUTUS特別編集 音のいい部屋」と続いて、2018年8月に「村上RADIO」!ラジオパーソナリティ。

自分公開度がマックスになっています。今まで見てきたとおり、村上春樹は58歳を境に今までの「クローズドスタイル」から徐々に「ちらっとオープンスタイル」、そして「オープンスタイル」へと移行してきています。

村上春樹ももうすぐ70歳になります。年齢のこともあるんでしょうね。これからもオープンスタイルを崩さず、かといってやりすぎず、まだまだ長編小説をいっぱい書いてほしいです。
あ、公開度マックスは会えることですね(笑)。

あ、そうそう、ラジオは録音を忘れずに!

村上RADIO公式ホームページ

まとめ

さて、いかがだったでしょうか?村上RADIOをきっかけとして、熱い春樹愛がふきだしてしまいました。ラジオももちろんですが、これを機会に村上春樹の本を読むひとが増えれば嬉しいです。

それではみなさま、よい春樹ライフを!

村上RADIO第二弾!

第一弾で春樹さんがなんか楽しくなっちゃって、第二弾が早々決まりました。いきなり新潮社からメール来たんでびっくりしました。

2018年10月21日(日)19:00 – 19:55 TOKYO FM / JFN38局ネット

で、なんですが、ホームページのぞくと春樹さんがなんだか意味深なこと言ってます。

それからいろいろとお話ししなくてはならないこともあります。といっても、なにも深刻な話じゃありません。どちらかといえば、どうでもいいような話です。どうか気楽に耳を傾けてください。お楽しみに。

村上春樹

えええーー!!!なんだってえ??春樹さんが「どうでもいいこと」とか言ってどうでもよくなかったことないじゃない。

まあ、いいです。現在、長編小説を書いていて、このあいだどっかで新しくできた賞の受賞を拒否されたし、なんていうか断筆はないだろうと勝手に想像しております。というか、きっと「長編小説執筆に集中したい」なんてライトな返し言葉であって、本当はその賞のブランディングの材料にされるのが嫌だったんだろうなあ。とか思います。

楽しみに待つよー。

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芸術は物欲だ!

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