カズオ・イシグロのノーベル文学賞受賞に添えて。文学のイメージ喚起力

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

最近ガスオ・イシグロ の露出が増えてんなーと思っていたら、ノーベル文学賞 とってたのか!

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イメージと記憶

カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」

カズオ・イシグロ の作品は、「わたしを離さないで」を数年前読んだっきりだけど、あの作品は三人称で書かれていて、前半は凡庸な(そう見える)日常が淡々と語られるばかりで、正直読むのが苦痛だったりするんだけど、後半から何だか不穏な雰囲気が漂い始め、なんだなんだ、なんなんだといった感じでグングン惹きこまれていく。

読み終わった時は、感情が平坦になって、ぼわーとさせられる。後から心の深いところが揺さぶられていることに気付く。そう、じわーと効いてくる。
少なくとも僕の場合、そうだった。

芸術のイメージ喚起力

僕的に心に残る作品というのは、読んでる時に抱く「イメージ」の事であり、それは音楽や映画、アートも同じ。

言葉という「記号」で、「イメージ」を喚起させるというのは、想像以上に大変なことだと思う。文章というのは、本来論理性の高いものであり、これを抽象世界に持っていく力を持つ文体というのは、本当に凄いものだと思う。
詩やウィリアム・バロウズにおけるカットアップ的な方法論ではなくそれを実現する力。
このイメージは、ずっと心に残る。そして自分の記憶と同じレイヤーに入ってくる。そしてそれが自分の体験になるのだ。

ノーベル文学賞

僕は、同じノーベル文学賞をとった大江健三郎の作品は思想が強すぎて正直あまり好きではないが、カズオイシグロの「わたしを離さないで」は、少なくともこの「イメージ」を心に深く残す作品だった。
映画化されているみたいだけど、たいていの映画は原作を凌駕することはないので、僕は観ていない。

村上春樹

そういった意味で村上春樹はやっぱり凄いと思う。最近の作品は昔の作品に比べるとイメージというものが薄れてきたが、まだまだ健在だ。
しかし、最近作品が売れすぎなんじゃないか。そのマスイメージも作品そのものが持つ力を邪魔してる気がする。
村上春樹の作品は、心の深い深い底にある「イメージ(彼のいうところの「井戸」というメタファー)」のレイヤーから紡ぎだされるものだと彼自身が言っている。だからこそ、彼の表現する文体であったり物語は、我々の深い部分に訴えかけてくるのだと思う。

高校生の時に読んだ「ノルウェイの森」。あの作品に衝撃を受け、もう25年程村上春樹の作品を読み続けているが、今でも心にイメージとして残っている。まるで音楽を聴くとその時抱いていた感情や匂いが蘇るように、彼の作品もそういう力がある。夢、もしくは記憶。知らぬ間にそれが血肉になっている。

物語の癒す力と恐ろしさ

読書はただ文字を追うものではない。娯楽だけのものではない。物語、はたまた詩や難解な哲学書も実際に自分が経験した物事と同義になる力を持っている。精神を慰撫するものでもある。そこが読書の凄いところであると同時に恐ろしさでもあると僕は思っている。

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芸術は物欲だ!

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